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  どうしてむし歯になるんだろう?

一昔前までは、歯科治療は「早期発見、早期治療」と盛んに言われていました。確かに早期に治療すれば、治療そのものが簡単、短時間、無痛あるいはそれに近い状態で行なえますので、治療する側とされる側どちらにとってもメリットが大きいと思われていました。結果、まだ10代前半だと言うのに、奥歯の溝に全て詰め物がしてあるような子供を見かけます。

そのような努力の結果、むし歯は減ったかというと、統計を取ってみると残念ながら減りませんでした。それはなぜなのでしょうか。

早期のむし歯は削らなくても治ります

数年前から歯科の世界では、MI(ミニマルインターベーション)と言う事が盛んに言われ始めました。これは何かと言いますと、簡単にいえば「必要最小限の治療で済ます」と言う事です。もちろん、今までも余分な治療を行ってきた訳ではありませんので、別に新しい概念ではないと思われがちですが、実は大きな違いがあります。

早期発見、早期治療の時代には、むし歯は自然治癒しないのでなるべく早期に治療すると言う考えのもとに治療が行なわれていましたが、今は「早期のむし歯は治る」と言う考えに変わり、虫歯の進行具合をレーザーで計測できる機械も発明されましたので、客観的に目の前のむし歯が治療するべきか、それともしばらく見守るべきかを判断できるようになりました。歯の溝に色が着いていて、一見むし歯のように見えても計ってみると全く問題ない場合も多々あります。少し前までは、何のためらいも無く削って詰め物をされていた歯ですが、今は治療せずに様子を見ましょうと言う場合が多くなりました。

初期のむし歯が治る事を「再石灰化」と言います。最近はテレビのCMなどでもよく使われていますので、耳にされた事もあると思います。ちなみに、その反対でむし歯が進行して行く事を「脱灰」と呼びます。

人間の歯に表面は、実は常にこの「脱灰」と「再石灰化」をくり返しています。脱灰は、口の中に存在するミュータンス菌が砂糖などを取り込んで出す「酸」によって行なわれます。「再石灰化」は唾液の中に含まれるリンやカルシウムイオンによって行なわれます。このバランス関係によってむし歯ができるかどうか、また、初期のむし歯が進行するか治って行くかが決まります。

アメや缶コーヒー、ジュース、スポーツ飲料でむし歯になる

アメなど常に口の中に甘いものが存在すると、脱灰がどんどん進んで再石灰化する時間がなくなるので、当然むし歯は急速に進行します。幼稚園や小学校低学年の子供でむし歯がたくさんある子供本人や親に聞いてみると、たいがい「アメが大好き」と答えられます。お口の中から生活習慣が読めます。

大人の場合は、糖分の入った缶コーヒ、ジュース、スポーツ飲料などの常用が疑われます。それと、最近はみなさん様々なクスリを常用されていますが、その副作用として唾液の出が悪くなったり、その質が粘っこくなったりして、その結果唾液による再石灰化作用が落ちるためにいっぺんにむし歯ができる事があります。当医院で定期健診をされていて、半年前まではどうも無かったのにむし歯が急発した方に聞いてみると、この半年間に何らかのクスリを常用しだした場合が多いです。

薬の副作用でだ液が減り、むし歯になる

特に、最近問題に感じるのは、安定剤、睡眠剤、抗うつ剤などの精神に作用する薬が若い方から年配の方まで非常に多く処方されている事です。これらの薬は唾液の分泌を抑制する作用が特に強いようです。もちろん急性期にはクスリの処方も大切でしょうが、漫然と飲み続ける事は避けた方がよい気がします。

むし歯の再治療で歯がなくなっていく

初期のむし歯は一般に「レジン」という合成樹脂の詰め物をします。これの平均耐用年数が5年前後という統計が出ています。ちなみに、その他の詰め物や被せ物など、どれをとっても平均耐用年数は10年を越えるものはありません。つまり、レジンの詰め物は5年前後で何らかの理由で再治療が必要になってくるという事です。

再治療を行う時、前の詰め物をはずしてやりかえるだけならまだよいのですが、大抵はまたむし歯ができたり、欠けたりしてやりかえになりますので、さらに歯を削って再治療となります。歯は脳と並んで体の中で再生がきかない組織です。再治療をくり返すたびに、よくて現状維持、ほとんどがさらに歯を削って治療が行われますので、これをくり返すうちに歯はなくなってしまいます。

とすれば、最初に歯科医師が治療介入する時期をなるべく遅らせる事で、その歯の寿命を延ばすことができるということです。ですから、初期のむし歯は削って詰めるのではなく、再石灰化を促す事により自然治癒させる方がよいという事です。

ただ、ここで誤解を招かないようにいくつか補足しておきます。

こんなむし歯は自然治癒しません

実質欠損、つまり、もう穴があいてしまったようなむし歯は、いくら再石灰化を促してもそれが自然治癒する事はありません。必ず歯科医師による治療が必要です。穴が空いていなくても、機械で測って明らかに治療に必要な数値が出れば、やはり治療しなければいけません。歯は一番外側がエナメル質といって一番固く、その中は象牙質といって少し軟くなりますので、むし歯は外の穴が小さくても中で大きく広がります。

また、初期のむし歯でも、それが現在進行中なのか、治っている途中なのかは時間の経過を追って見ていかなければわかりません。進行中のむし歯をいくら初期だからといって、長くほおっておくと、どんどん進行して手遅れになる場合もあります。ですから、様子を見る場合も当医院では必ず3ヵ月後の健診を指示します。そこでもう一度検査して、治って来ているようでしたら引き続きブラッシングやフッ素の使用を励行し、様子を見ます。逆に、進行しているようでしたら積極的に治療します。3ヶ月だと仮に多少むし歯が進行したとしても簡単な処置で終わります。仮に前回治療したとしてもほとんど変わらない治療になります。

むし歯は生活習慣病ですから、初期のむし歯ができたということはそれなりの生活習慣の見直しが必要だということです。今までと同じでは再石灰化が追いつきません。甘いものを控えたり、歯磨きの正しいやり方を覚えたり、フッ素を使用する習慣をつけたりすることが大前提です。当医院でも3ヵ月後の検診応じてもらえず、1年後くらいには大きな穴になってしまい、これなら初期の段階で治療しておけばよかったと後悔することもあります。患者様の生活習慣(ブラッシングの状態、食生活、特に甘いものの摂取など)をしっかり問診して把握し、総合的に判断する事が必要です。

このように、初期のむし歯を治療せず、観察していく事は諸刃の刃です。うまく管理できれば進行を止めて再石灰化を促す事ができますが、管理できないと余計に悪くなる可能性もあります。そこの理解を十分にしていただくことが大切です。